三十年続けた仕事の、最後の一年
郵便局で三十年以上働いてきました。来年の春で定年です。
若いころは、この仕事を一生続けるつもりなんてありませんでした。いつか別のことをしたいと思いながら、気づけば三十年。毎朝同じ道を自転車で回り、同じ家のポストに手紙を入れてきました。
配達先のおばあさんが、ある年から玄関先で待っていてくれるようになりました。手紙が来ない日も、「ごくろうさま」と言ってくれる。そのおばあさんが施設に入ったとき、私は初めて、自分の仕事が誰かの毎日の一部になっていたことを知りました。
大きな仕事をしたわけではありません。誰かに褒められるような経歴もありません。でも、三十年分の「ごくろうさま」が、私の宝物です。
最後の一年、いつもより少しだけゆっくり自転車をこいでいます。この道の景色を、ちゃんと覚えておきたいので。
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