六畳一間から始まった、私の暮らしの二十年

窓辺の観葉植物(40代)さんの歩き方

私の暮らしの話を、最初から書いてみようと思います。特別なことは何もない、普通の暮らしの二十年です。でも、その普通の暮らしを、自分の手で少しずつつくってきたことを、どこかに残しておきたくなりました。とても長くなります。

二十歳で実家を出て、初めて借りたのは、駅から歩いて二十分の、古いアパートの六畳一間でした。家賃は三万八千円。お風呂はあるけれど、追いだきはできない。窓を開けると、隣の建物の壁が見える。日当たりは、ほとんどありませんでした。それでも、鍵を受け取って、何もない部屋に一人で立ったとき、胸がいっぱいになりました。ここが、私の場所なんだ、と。

最初の一年は、とにかくお金がありませんでした。家具は、リサイクルショップで買った小さなテーブルと、実家から持ってきた布団だけ。カーテンは、一か月くらいなかったと思います。夜、電気をつけると外から丸見えになるので、暗い中でご飯を食べていました。ご飯といっても、ほとんどが袋のラーメンか、安いパンでした。

それでも、少しずつ、部屋に物が増えていきました。最初に買ったのは、小さな観葉植物です。日当たりの悪い部屋でも育つと、お店の人に教えてもらったポトスでした。毎朝、水をやりながら話しかけるのが、ひとり暮らしの小さな習慣になりました。そのポトスは、今も私の部屋の窓辺にあります。何度も株分けして、今は五つの鉢になりました。

二十代の半ばに、少しだけ広い部屋に引っ越しました。今度は、窓から空が見える部屋です。その部屋で、私は初めて、自分の暮らしを「整える」ことを意識し始めました。それまでは、ただ寝る場所、という感覚でした。でも、仕事が忙しくなって、心も体も疲れてくると、帰る場所の大切さが身にしみてわかってきたんです。

最初に始めたのは、朝ごはんを食べることでした。それまでは、朝は何も食べずに家を出ていました。トーストとコーヒーだけでもいいから、座って食べる。それだけで、一日の始まり方が変わりました。次に、週末に一度、部屋をしっかり掃除することにしました。掃除機をかけて、床を拭いて、窓を開けて空気を入れ替える。きれいになった部屋で、日曜日の夕方にお茶を飲む時間が、私の一週間のごほうびになりました。

二十代の終わりに、大きな失恋をしました。何年も一緒にいた人と別れて、しばらくは何もする気が起きませんでした。部屋は荒れて、ご飯も作らなくなって、窓辺のポトスも元気がなくなっていきました。ある朝、しおれかけたポトスを見て、ああ、私が自分を放っておくと、この子も弱っていくんだ、と思いました。その日、久しぶりに水をやって、部屋を片付けて、みそ汁を作りました。みそ汁を飲みながら、少しだけ泣きました。暮らしを整えることは、自分を大事にすることなんだと、そのとき初めてわかった気がします。

三十代になって、結婚しました。二人暮らしの暮らしは、ひとり暮らしとはまったく違いました。食器の洗い方、洗濯物のたたみ方、寝る時間、起きる時間。何もかもが違って、最初の一年はけんかばかりでした。でも、少しずつ、二人の暮らしのルールができていきました。料理は私、洗い物は夫。洗濯は気づいたほうが。日曜日の朝は、二人で近所のパン屋さんに行く。そうやって、二人で一つの暮らしを、手探りでつくっていきました。

三十代の半ばに、子どもが生まれました。暮らしは、また一変しました。整えるどころか、毎日がめちゃくちゃでした。夜泣き、おむつ、離乳食。部屋はおもちゃで散らかり、自分のご飯はいつも立ったまま食べていました。あれほど大事にしていた「暮らしを整える」ことが、まったくできなくなって、自分を責める日もありました。

そんなとき、近所に住む年上の友人が言ってくれました。「今は、暮らしを整える時期じゃなくて、暮らしを生き延びる時期なのよ。それで十分」。その言葉に、どれだけ救われたかわかりません。完璧な暮らしなんて、目指さなくていい。今日一日を、家族みんなで生き延びられたら、それで十分。そう思えるようになって、少し肩の力が抜けました。

子どもが小学生になった今、暮らしは少しずつ落ち着いてきました。朝ごはんは家族三人で食べます。週末の掃除は、子どもも手伝ってくれるようになりました。窓辺には、あの六畳一間から一緒に引っ越してきたポトスと、その子どもたちが並んでいます。子どもは、毎朝ポトスに水をやるのが自分の仕事だと思っているようです。

二十年の暮らしを振り返ると、一番大きく変わったのは、暮らしに対する考え方かもしれません。若いころは、暮らしとは、仕事の合間に寝て食べるだけのものだと思っていました。今は、暮らしこそが、私の人生の土台だと思っています。仕事でどんなにつらいことがあっても、帰る場所が整っていれば、また次の日を迎えられる。暮らしが崩れても、また少しずつ整えていけばいい。

特別なことは何もない、普通の暮らしです。でも、その普通の暮らしを、二十年かけて、自分の手で少しずつつくってきました。六畳一間の暗い部屋で、袋のラーメンを食べていた二十歳の私に、教えてあげたいです。あなたが最初に買ったポトスは、二十年後も、ちゃんと窓辺で元気に育っているよ、と。

長い話を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。あなたの暮らしも、どうか、あなたのペースで整っていきますように。

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