病気になって、体と仲直りするまで
三十八歳のとき、私は難病と診断されました。治ることはなく、一生付き合っていく病気です。この文章は、病気がわかってから、自分の体とどう向き合ってきたか、その六年間の記録です。とても長いです。読める方だけ、読める分だけ、読んでいただけたらうれしいです。病気と向き合っている方は、どうか無理をせずに。そして、つらいときは主治医や医療機関の相談窓口に話してください。
最初の症状は、ひどい疲れでした。朝起きても疲れがとれない。階段を上るだけで息が切れる。仕事が忙しい時期だったので、疲れているだけだと思っていました。でも、半年たっても、一年たってもよくならない。関節が痛くなって、熱が出る日も増えていきました。いくつかの病院を回って、ようやく診断がついたのは、症状が出てから一年半後のことでした。
診断を聞いたとき、最初に感じたのは、意外にも安堵でした。ああ、やっぱり何かあったんだ、怠けていたわけじゃなかったんだ、と。でも、その安堵は、病気について調べるうちに、すぐに恐怖に変わりました。治らない。薬で症状を抑えながら、一生付き合っていく。悪くなることもある。夜、ベッドの中で、何度もスマホで病名を検索しては、怖くなって画面を閉じました。
最初の一年は、自分の体を憎んでいました。どうして私の体は、こんなにも思い通りにならないのか。昔は、徹夜で仕事をしても平気だったのに。休日には山登りもしていたのに。今は、少し無理をしただけで、何日も寝込んでしまう。鏡に映る自分の顔が、むくんで、知らない人のように見えました。体が、自分を裏切ったように感じていたんです。
仕事も、続けるのが難しくなりました。上司に病気のことを話すと、配慮すると言ってくれましたが、実際には、私が休むたびに同僚に負担がかかることは変わりません。申し訳なくて、無理をして出勤して、また体調を崩す。その繰り返しでした。結局、一年後に、私は会社を辞めました。辞表を出した日、帰りの電車で、自分の人生が終わってしまったような気がしました。
仕事を辞めてから、しばらくは家にこもっていました。何もする気が起きなくて、ただ、体の痛みと疲れをやりすごす毎日。友人からの誘いも、全部断っていました。会えば、病気のことを聞かれる。気をつかわれる。それが、たまらなく嫌でした。
転機になったのは、主治医の病院でたまたま見つけた、患者会のチラシでした。同じ病気の人たちが、月に一回集まって話をする会です。最初は、行くつもりはありませんでした。同じ病気の人の話を聞いたら、自分の未来を見せられるようで、怖かったんです。でも、何か月もチラシを冷蔵庫に貼ったままにして、ある月、思いきって参加しました。
会場には、十人ほどの人がいました。二十代の若い人から、七十代の人まで。みんな、同じ病気を抱えながら、それぞれの暮らしを送っていました。ある人は、在宅でできる仕事を見つけて働いていました。ある人は、体調のいい日だけ、近所の手芸教室に通っていました。ある人は、病気がわかってから結婚して、子どもを育てていました。私が想像していた「病気の人の未来」とは、全然違う景色がそこにありました。
会の帰り際、七十代の女性が、私に話しかけてくれました。「最初の数年は、体と喧嘩するのよね。私もそうだった。でも、そのうち仲直りできるから」。体と仲直り。その言葉が、ずっと頭に残りました。
それから、私は少しずつ、自分の体のことを知ろうとし始めました。どんなときに調子が悪くなるのか。どれくらい動くと、翌日に疲れが残るのか。天気や季節で、どう変わるのか。ノートに毎日、体調と、その日にしたことを記録しました。数か月続けると、自分の体のパターンが少しずつ見えてきました。
たとえば、二時間続けて何かをすると、次の日は必ず疲れが出る。だから、一時間ごとに休憩をとる。気圧が下がる日は、関節が痛くなりやすい。だから、天気予報を見て、雨の前の日は予定を入れない。そうやって、自分の体に合わせて暮らしを組み立て直していくと、寝込む日が少しずつ減っていきました。
体を憎むのをやめて、体の声を聞くようにしたんです。痛いときは、痛いね、と心の中で言う。疲れたときは、今日はよく頑張ったね、と言う。ばかみたいだと思われるかもしれません。でも、そうしていると、不思議と、体が自分の敵ではなく、一緒に生きている相棒のように思えてきました。夜寝る前に、痛む関節に手のひらを当てて、温めるのが習慣になりました。
病気がわかってから三年目に、在宅でできる仕事を始めました。以前の仕事の経験を生かした、書類作成の仕事です。収入は以前の半分以下ですが、自分のペースで働けます。体調の悪い日は休んで、いい日に少し多めに働く。会社員のころには考えられなかった働き方ですが、今の私には合っています。
友人とも、少しずつ会うようになりました。病気のことを正直に話すと、ほとんどの友人は、気をつかいすぎることなく、普通に接してくれました。「疲れたら言ってね」と言ってくれる友人と、短い時間だけお茶をする。それくらいの付き合い方が、ちょうどいいとわかりました。
病気がわかって六年がたちました。病気は治っていませんし、これからも治ることはありません。悪い時期もありました。入院したこともあります。でも、今の私は、病気になる前の私より、自分の体のことをずっとよく知っています。そして、前よりずっと、自分の体を大事にしています。
健康だったころの私は、体を道具のように使っていました。疲れていても無視して、痛くても薬で抑えて、限界まで働かせていた。病気になって初めて、体はずっと私のために頑張ってくれていたんだと気づきました。今は、その体と一緒に、ゆっくり歩いています。
患者会には、今も毎月参加しています。最近は、新しく参加した人に、私が声をかけることもあります。「最初の数年は、体と喧嘩するものですよ。でも、そのうち仲直りできますから」。あの七十代の女性に言われた言葉を、今度は私が誰かに渡しています。
もし今、病気と向き合い始めたばかりで、怖くて、自分の体を憎んでいる人がいたら、伝えたいです。その気持ちは、とても自然なものです。無理に前向きになる必要はありません。でも、いつか、体と仲直りできる日が来るかもしれない。私は、そうでした。そして、一人で抱えずに、主治医や、患者会や、相談窓口を頼ってください。同じ道を歩いている人は、思っているよりたくさんいます。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
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